これまでスケッチラボを利用する方々へのインタビューを行ってきましたが、最終回はスケッチラボを運営する産学官連携組織「とやま未来共創チーム」の 会長である村上さんにお話を伺いました。

聞き手:
村上さんは創設時からスケッチラボに携わっているとのことですが、スケッチラボが誕生したきっかけを教えてもらっても良いでしょうか?

村上さん:
僕自身、10年ほど前に起業を経験しているのですが、現在までの道のりは決して楽ではなく、倒産の危機も含めてかなり凸凹の毎日でした。でも今は楽しく、やりがいもあり起業して本当に良かったと思います。おかげさまでとても充実した人生でもありますが、起業しようと思ったきっかけは若い頃に、憧れることができる経営者に出逢ったことでした。
また、富山県内にも起業のための勉強会や活動がいくつかあって僕自身も参加させて頂きましたが、起業したいと思う方々や経営者の方々が集まります。人脈を作ることもできて、とても勉強になりました。

一方で、これは当たり前なのですが、そもそも起業したいと思う方々が増えていかないと、起業のための勉強会や活動があっても意味がないですし、富山という地域が潤っていかないと思ったのです。

そこで、どうすれば起業のきっかけづくりができるのかとなるのですが、まずは経営者の方々や、起業できる仲間との出会いの場づくりが必要なのかと思った次第です。その様なことを考えていたところ、5年ほど前に、たまたまにして、同じ考え方を持つ方に出逢って、少しずつ道が開けてきました。

聞き手:
起業をサポートする場合は、起業できたかどうかという結果があるので成果を示しやすいですが、起業のきっかけづくりは、参加された方々が起業したいと思っても推し量りにくいですし、起業できるかどうかは更に先になるので、事業成果を示しにくいところがあるのかと思います。スケッチラボの事業を始めるにあたり、関係者の方々のご理解を得ることにハードルがあったのではないでしょうか?

村上さん:
はい、実にKPIが立てづらいですね。笑
行政にしても、企業にしても、成果が推し量りにくい事業を成立させるためには一筋縄ではいかないので、ご支援いただける組織長のマインド形成が全てなのではないかと思いました。そのため、スケッチラボの創設にあたっては、多元的かつ多方面に根気強くアプローチさせていただきました。また、産学官連携であるからこそ成り立つ構造です。

聞き手:
今でこそ、起業することなんて考えていなかった方々が起業マインドを醸成しているという事例が生まれていますが、そもそも起業したいと思うかもしれない方々がどこいると想定していたのでしょうか?

村上さん:
みなさん誰しも可能性をお持ちなのかと思います。ただ、僕自身が若かった頃と変わってきているのが、興味の対象なのかと思います。具体的に言えば、僕自身の場合は恥ずかしながら、起業=お金儲けでした。それが自己実現のための明快の手法だったのですが、近年は必ずしも起業=お金儲けではなく、起業=社会貢献が、その方々によっての自己実現のモチベーションになっているのではないかと思います。このことに気づけたのもスケッチラボへの関わりがあったからです。

聞き手:
スケッチラボはコワーキングスペースではありますが、どちらかと言えばここで開催されているプログラムがコアコンピタンス(他にはない要素)なのかと思います。現在の主要なプログラムは当初から想定していたのでしょうか?

村上さん:
ただ単にスペースだけ作ってもひとが集まらないことは分かっていたので、様々なイベントの企画をしました。認知拡大のためのイベントや、利用者を増やすために県内のコワーキングスペースを横で繋げる様な仕組みづくりも行いました。どの様なイベントをすればひとが集まるのか、どのようなイベントだと集まらないのかさえも分からなかったので、とりあえず考えられること、できることは全てやったというのが創設1年目だったような気がします。

聞き手:
どのようなイベントであれば、ひとが集まったのでしょうか?

村上さん:
現在も続いているスケッチミートアップや、スケッチオーデションについては比較的最初の頃から反応が良かったのかと思います。新しい出会いや仲間づくりのための交流の場や、チャレンジの場に需要があると感じました。たくさんのイベントをやりすぎて、利用者の方から、予定が合わないとか、どれに出れば良いのかわからなくなってきたとの声をお伺いしたこともあって、2年目はプログラムを絞っていきました。また、ビジネスというフィルターではなく、社会的な活躍の場について興味がある感度の高いひとにアプローチできるプログラムにフォーカスを当てることにしました。
近年では、みなさんのご尽力が実り、学生も巻き込むことができています。ひと昔前は、熱量の高いひと=リーダー気質でしたが、今はそうではない様な気がします。感度の高い学生にも色々なタイプがいる様です。おとなしい学生が、スケッチラボでの活動によって感化され、行動量が劇的に変化した様な事例もあります。また、学生も活躍しているおとなに憧れるものだという事がわかりました。

聞き手:
スケッチラボは5年目を迎えていますが、活動が持続するための工夫はありますか?

村上さん:
コミュニティでもそうですが、コアユーザーが固定化し、顔馴染みばかりとなるとどうしてもクローズドな雰囲気となってしまい、新しい方々が立ち寄れなくなる可能性があります。このため、プログラムの半分くらいは、初心者でも入りやすい、立ち寄りやすいものとしています。また、共創研究員というポジションを作り、持続的に関わって頂ける方々には、運営側に近い存在として全体を俯瞰して頂く様な仕組みで運営しています。

聞き手:
産学官の構造が重要とのご意見がありましたが、行政(富山市)との関わり方についてはいかがでしょうか?

村上さん:
地域の行政との関わりにおいて、県は包括的なポジションであることに対して、市は基礎となる自治体なのかと思います。スケッチラボの活動は市民としてのベーシックな活動なので、市との連携が良いと考えています。ただ、スケッチラボの考え方は決して富山市だけのものではないので、富山市や富山県という枠組みに限らず展開していきたいと思います。できれば世界にも窓を開いていきたいですね。

聞き手:
これから先、例えば10年後のあるべき姿はありますか?

村上さん:
スケッチラボに関わってくれている方々は本当にすばらしい方々ばかりですが、
市民活動としては、まだまだ一部のことなのかと思います。地域で共創して行く、起業マインドが育つという感覚が当たり前になってほしいですね。そして、ここで培われた価値を次世代に引き渡すことができれば幸いです。それまでは活動を続けていきたいと思います。

村上さん(「とやま未来共創チーム」会長)
不動産会社を経営の傍ら、地域づくりとひとづくりに邁進中。